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◇「白いリボン」を観る2011年01月31日 17時47分29秒


「白いリボン」(2009年 ミヒャエル・ハネケ監督)予告編

「白いリボン(原題:Das Weisse Band)」
この映画は、第一次世界大戦に至る少し前の、北ドイツのある村の時間を切り取った映画だ。
この映画の背景にあるのは、良くも悪くも「道徳」だと思う。

私はこの映画を、横浜のとあるミニシアター系の映画館で見た。
上映時間前でも場内は薄暗く、座席の傾斜がゆるく、シートのコンディションもお世辞にも良いとは言いがたい。

久しぶりに観るこの手の映画を、正直このコンディションの悪い映画館で、コンディションの悪い体調の中で、2時間24分の長丁場を最後まで観ることができるかどうかも不安だった。
途中でトイレに行きたくなるのではないか。
昨日はあまり眠れていないので、途中で寝てしまうのではないか。

場内が暗くなり、これから上映される映画の予告編が短く流れ、いよいよ本編に入ろうとするとき、スクリーンが数秒暗転したのが必要以上に暗く見えた。
それを見たとき、子供の頃山の中にあった父の実家で、電灯も何もなく真っ暗闇の中で目を凝らして外を見たときのことを思い出した。
一瞬自分を見失い、目が闇に慣れるにしたがって現れる、山の稜線や遠くの林の樹々の影を、闇の中でうごめく生物の気配を、理由もなく恐ろしいと思いつつも、そこに何があるのか知りたい欲求も自分の中に見え隠れする気持ちが、一瞬よみがえったような気がした。

実際この映画は、オープニングからエンディングの最後の最後まで、一切のBGMが存在しない。
映画の中に使われる音は、そのシーンに自然と発生する音と人の声だけで、意図的にイメージを強調するような音楽は使われていない。

カラー映像をわざと白黒にデジタル変換したという画面は、不自然な光は存在せず、灯油ランプやろうそくの炎、闇に照らし出される月明かりや、明るい太陽の光と、そのシーンに自然と発生する最低限の光しか存在しない。
それがとてもリアルでありつつ、リアリティから一番遠いところにあるような気持ちにもさせる。

まるで何かの物陰から、ある村のある時間を、暗闇の中で眺めているような錯覚。
その村で起きている何かを確かめるために、ただ暗い物陰から懸命に確認する作業は、上映前の心配をただの杞憂に替えてしまった。
私たちが持つものとは微妙に違う、生活する上での「観念」と「道徳」を、完全に共有し理解することはできないまでも、ひとつひとつの「事件」を「覗き見ている」という気分にさせる。
それが、見えない闇の中で目を凝らし、そこに何があるのか、何が起こっているのかを確認しようとする作業に似ているような気がした。

そして、エンドロールの最後の最後で、この映画にBGMが存在していなかったことに気づく。

この手の映画は、観る人が様々な観点から様々な感想を持つのがいいと思う。
監督は映像の中に、さまざまなアイコンをちりばめ、その一つ一つに意味を持たせてはいるが、それも判る人だけが解ればいいのだろうと思う。
少なくとも、日本人よりはヨーロッパ人の方が理解が深いと思うし、神道や仏教徒よりはキリスト教徒の方がより深く意味を理解するだろうと思う。
そういう知識を有しているかどうかで、理解の仕方は異なるだろうけれど、どんなにがんばっても、私たち日本人が第一次世界大戦前のドイツの田舎町に住む、敬虔なプロテスタントの意識を共有するのは難しい。
だからこそ、「リアリティのないリアル」を「覗き見ている」気分になれるのだろうと思う。

ただ、ヨーロッパが第一次世界大戦に至る経緯と、プログラムにある登場人物は、事前にちょっと予習した方が、より楽しめるのではないかと、ちょっとだけ思う。
そしてこの映画は、観ながら食べ物を食べるにとても適さない映画だ。
映画を観るなら、事前の腹ごしらえとトイレは是非ともすませるべきだと、痛烈に思う。


一瞬でも目を離したくない。
物音一つ一つに注意を払い、一つの情報ももらせない。
そんな、「家政婦は見た」状態にさせてくれる映画だった。


横浜の古い歓楽街の端っこにあるその映画館から出たときにはすでに夜で、昼間はなかったネオンが賑やかに通りを照らしていた。
道の途中で、外国人のお姉さんがどこかの店の客引き相手に派手な喧嘩をしていて、近所の人たちが「またか」という感じでその光景を遠巻きに眺めていた。
映画館を出たばかりで、猥雑な環境を隠さないこの街の光景すら映画の続きの意味のあるもののような気がして、その街の明るさと闇が目の前に現れているような気がした。


「白いリボン」公式ホームサイト http://www.shiroi-ribon.com/

コメント

_ 庭師 ― 2011年02月08日 22時11分04秒

久しぶり^^。予告編が妙にそそるね。映画の宣伝はこれくらいが丁度いい。バカのひとつ覚えみたいな宣伝はくそだね。こっちでは無理だと思うからDVDを待ちます。
いい映画を教えてくれてありがとう!!

_ makura ― 2011年02月09日 01時18分51秒

>庭師さん

お久しぶりです。
この映画の予告は秀悦ですが、本編もなかなかです。
DVDでたら、是非みてみてください。

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