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◇声帯が虹を描く2006年12月09日 00時44分19秒

 
横浜みなとみらいホールで巻上公一さんが出演した「声帯が虹を描く」を見に行った。
これは横浜みなとみらいホールのJust Composed in Yokohamaの一環で、同時代音楽の紹介に積極的な演奏家を迎え、現代の旬の音を紹介するコンサートのひとつとのことらしい。

巻上公一さんの超歌唱のコンサートは今までも何度も見たが、こういった本格的な音響設備の整ったホールで見たのは初めてのことだった。
観客も、ホーメイや口琴の好きな人たちではないし、当然ヒカシューのファンとも違っていて、年輩の人が多く見受けられ、巻上さんの出演する催しで知った顔が一人もいないというのも初めてのことだった。

今回のコンサートは、『声』をテーマとしたもので、ドイツのタダイスト シュビッターズの音響詩や、ジョン ケージの実験的作品、本格的な声楽アンサンブルによるミサ曲、トゥバのホーメイのバリエーション、超歌唱アンサンブル、このコンサートのためのオリジナル曲など、楽曲自体は8曲ほどだったがその内容は盛り沢山だった。

第一部の最初は、巻上さんによる前衛的な超歌唱が続き、第一部の最後で本格的な声楽アンサンブルによるミサ曲が歌われる。黒い衣装に身を包み整然と並んだ声楽アンサンブルが舞台にあらわれると、客席に巻上さんが超歌唱をしながらふらふらと現れ、舞台に寝そべったり、壁の音響用の反射板に向かって歌ったりするのだ。その光景は、クリスマスを祝う聖歌隊のそばで、(言葉は悪いけれど)酔っぱらいのおじさんがそれに合わせて気分よく歌う姿のようだった。
巻上さんの超歌唱的表現は、正統派を絶対的と思っている人にとってはひどく異端に感じると思う。最近でさえモンゴルのホーミーなどが知られるようになり、正統派の声楽的表現方法だけが声の表現ではないのだということを漠然と知ることができるが、それらは常に別なものとして認識されているように思う。
それが、この舞台では正統派に対する異端を表現しているかのようで、声の表現の中で常に問われる「正統派の声楽的発声と前衛的発声表現」の違いを見ているように感じた。

第二部の最初で、巻上さんはトゥバの青い衣装に身を包み、ホーメイのバリエーションを行うのだが、音響設備の整った会場でその声はプロペラのようにぐるぐると会場を回るかのように心地よく響き渡る。
それまでは変な帽子をかぶって変な声を出し、正統派の声楽アンサンブルに変な行動で参加していた人が、突然異国の衣装ですばらしい声を披露したのだから、会場は度胆を抜かれたようになっていた。

次のチャクルパ ナビでは、公募により無作為に選抜された18人の普通の人たちが声のパフォーマンスを行うというもの。舞台にいるのは、小学生らしい男の子から50代くらいの女性まで男女取り混ぜてのメンバー。巻上さんの指揮で声の連想ゲームやキャッチボールを行うような手際でパフォーマンスが繰り広げられ、事前の「会場の人たちも手伝ってください」との説明により、巻上さんが突然客席に振り返って指揮をすると、客席の人たちがそれに合わせて声を発する。それは波打ったり、くるくると回ったりとさまざまな指示がされるのだが、声を発する楽しさに、参加することでより声による表現のコンサートに親近感がわいた。

最後に、このコンサートのために作曲された野村喜和夫さんの「街の衣のいちまい下の虹は蛇だ」という詩をモチーフとした曲を、声楽アンサンブルと、超歌唱素人アンサンブルが一丸となっての舞台となり、巻上さんはソロパートと詩の朗読を担当した。
正統派の声楽アンサンブルによるちゃんとした歌の中に、超歌唱素人アンサンブルの人たちが表現する詩の世界。それは街中に流れるクリスマスの曲の合間に、雑然とした喧噪のごとく。日曜の夕方のデパートのようで、年末の繁華街のようで、幼稚園のクリスマス会のようだった。それらの中にいながら、意識はものすごく遠いところにあって、意識がとんで景色が逆さに見える時のような心地よい厭世感の中にいる気分だった。そこに巻上さんのソロや詩の朗読が入ると、ふっと現実に戻されるような、もっと遠くに連れていかれるような感覚が交差した不思議な感覚が更に深まっていくのだ。

このコンサートは、巻上さんを含めた三名の選定委員による構成で行われたものとのことだが、会場の多くの人たちは声楽アンサンブルの正統な声楽を期待してきた人も多くいたようで、巻上さんの最初の前衛パフォーマンスにびっくりし、声楽アンサンブルとの絡みで(いい意味でも悪い意味でも)興味を持ち、ホーメイで度胆を抜かれ、素人超歌唱アンサンブルで親近感を持ち、「街の衣のいちまい下の虹は蛇だ」で声の可能性の深さに納得したような印象を持ち、常に舞台の上にいた巻上さんの思うつぼにまんまとはまった気がしてしまった。

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